矢幡洋の犯罪心理学と事件-日々の考察

犯罪事件コメンテーターとしてTVに出ることがあります。社会の出来事や自分の体験を心理学的に考察します。3日に一度、昔、単行本などに書いた少年犯罪分析を連載します。自分で取材した古い事件もあります。他、本家ホムペ・ブログ更新情報も告知します。

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「佐世保殺人高1女子女子=女酒鬼薔薇」を撤回する | パワーと欲と支配の世界にて

 

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統合失調症型ゾーンか、自己中心ゾーンか

 

 私は、佐世保高1女生徒殺害事件の加害者A子を酒鬼薔薇事件の少年Aと似たタイプとしてとらえて両者を比較した記事を書き、 「女酒鬼薔薇」と位置づけた。だが、現在入手できる限りの情報の範囲では、加害者A子は酒鬼薔薇とは全く別のタイプと考えるべきだと思っている。
自分がどこで判断を誤ったのか振り返ってみよう。それは、酒鬼薔薇のようなシゾイド・スペクトラム(特別病的とまでは言えないシゾイド・パーソナリティーから統合失調症までを含むゾーン。犯罪傾向が強いわけではなく、犯罪者の中にたまにこのタイプがいるというだけの話)とみるか、反社会性ゾーンとみるか、と言う全く異なる人間像の重要な違いによる。前者は、アンナ・ホーナイが「他人から距離を取ろうとするタイプ」とし、後者は「他人と競おうとするタイプ」とした(後に、ミロンが「自己中心的グループ」としてまとめたものである) 。

 

ミスリーディング-解剖願望の起源はたどれない


  私が、加害者A子を酒鬼薔薇タイプと考えたのは、その後の報道で「人を殺し、解剖したい」と言う願望の出所を示すものがなかったからである。とすれば、とりあえず理解不可能なものとして位置づけるしかない。それは、通常の人間心理の埒外から出てくる説明不可能な願望である、としておくしかない・・・ところが、ここ1週間ほどで、 「加害者A子が解剖図を所持していた」と言う情報や、 「身体の内部に興味があった」などの情報が相次いだ。また、 (父親に、 「対外的にはそう言うように」と指示されていた様子だが) 「検事になりたい」と言い始める前には 「医者になりたい」と言っていたらしい。

 

レアな「知識欲に基づく殺人」


  つまり、加害者A子の「人を殺し、解剖したい」と言う願望は、 「知的な好奇心から発生した」 と言う出所がつくことになる。事実、加害者A子の知識欲は大変なもので、図書室の本を次から次へと読破し、 「本を読むことで、自分が作られて行く」と言う作文を書いていたらしい。
つまり、これは「知識欲・好奇心に基づく行動」と言う人間的に理解可能なものである。もちろん、その知識の手前にある殺人という垣根をやすやすと越えてしまった事は異常としか言いようが無いのだが、とりあえず「知識欲に基づく殺人」と位置づけることができるのだ。

 

「あちら側」の酒鬼薔薇


  酒鬼薔薇の殺人願望は、はるかに謎めいた起源を持ち、殺害そのものが快楽として感じられる、と言うはるかに通常の人間心理から飛躍したものである。 「唯一やさしかった祖母が亡くなり、愛犬が亡くなり、 『死』に取り付かれた」と言うところに起源がある。それは、 「 瓶の中にカを閉じ込めて、窒息死していく様子をじっくりと眺める」と言うものであり、知識欲と言うよりも、この世ならぬ不可思議な光景に魅入られたところから始まる。やがて、小学校上級生では、殺害する時の猫の様々な様子を楽しみ、マスターベーションを伴うようになった。加害者A子の知的関心と比べると、はるかに「あちら側」である。

 

逸脱思考の痕跡が乏しいA子


  また、私のミスリードは、加害者A子の行動の中に「通常心理からは理解しがたい逸脱思考」があるものと想定し続けたところにある。初期報道の「ネット上に血まみれの腕の写真をアップした」や、 「血文字を書こうとした痕跡がある」などの情報を重く見すぎた。前者は、後に否定されたし、後者もそれを裏付けるA子の供述は発表されていない。


  犯罪事件を、統合失調症ゾーンのものか、反社会性ゾーンのものかを区別するのに、私は、犯行の中に通常心理では理解できない逸脱した奇妙な魔術的思考が見られるかどうかをポイントにしている。前者は、例えば「亡くなった祖父を蘇らせるために殺害した女児の骨を食べた」宮崎勤、人工神「バモイドオキ神」をノートに書き殺人を「聖なる儀式アングリ」と記した酒鬼薔薇、切断した母親の左腕を植木鉢に植えて奇妙なオブジェを作った会津母親頭部切断事件などである。

 

単純な「欲の塊」-反社会性人格障害

 

 これに対して、反社会性ゾーンの犯罪者の動機は、単に「金が欲しい」などの世俗的要求である(復讐目的の犯罪は、個人的にはサディスティックパーソナリティー障害としたいところだが、正式診断名称ではないので、反社会性人格障害のエリアとせざるを得ない) 。彼らにとってみれば、 「切断した腕を植木鉢に植えて、一体全体何の得があるのだ?そんな時間があれば、金目のものをもっと探せば良いのに 」と言うことになるだろう。彼らは、 「あちら側の思考世界」には縁がない。言ってしまえば、俗っぽい「欲の人 」である。ただし、その欲を満たすためにどのような手段を取ろうとも良心の呵責を感じない。そして、加害者A子の場合、欲とは「知識欲」であった。

 

むきだしの力志向

 

 加害者少女Aの幼少期からのエピソードを見れば、彼女が、死にたいして神秘的魅力を感じていた酒鬼薔薇とはまるで異なる精神圏の住人である事は明らかである。


・砂を掘ってありの巣を探し、慌てて穴から出てきたアリを1匹残らず踏み潰すことに夢中
・トカゲの尻尾を摘んで木にたたきつけて殺す
・「足を踏まれたとか、水がかかったとか、ささいなことでぶちキレる。キレた相手の筆箱や鉛筆をゴミ箱に捨てたり、椅子に座っていると無言で机を押し付けたり、『なんでそこまで?』っていうところがあった」
・「『ネコの目って知ってる? コロコロしているんだ』とAが言うので、なぜ、そんなことを知っているのかと尋ねたら、『ネコの首を掴んで、目をえぐって取った。足をナイフで切ろうとしたが、なかなか切れんかった』と表情一つ変えずに言った。ネコはエサを使っておびき寄せた、と説明し、頭のいいAらしいと思ったが、ドン引きした」
・少女Aの母親は生前、同級生の保護者にこんな不安を漏らしていたという。「親でも想像できないいたずらをし、その度が最近、超えていて困っている。人にいたずらを見せて喜ぶようなところがある。私の前ではおとなしくしていたが、お友達にひどいことをしても、『それみたことか』と逆なでするようなことを平気で言う。うちの子は人の気持ちがまったく理解できないみたい」(後者二つは男子同級生の証言)

 

威嚇大好き、仕返し大好き


 週刊朝日2014年8月15日号の記事を見て、私の印象は決まった。
 ここにあるのは、 「不思議な逸脱意味の世界」などでは無い。むき出しの、パワーと支配なのだ。 「アリを踏み潰す」なかには、 「死の神秘的魅力」など存在しない。弱者を蹂躙できる自分が強者であることの喜びに満ちた確信にすぎない。


  反社会性人格障害の(私としては、サディスティック・パーソナリティー障害と言いたくてしょうがないのだが)大きな特徴に、 「相手に与えうる苦痛が大きいほど、自分は強者なのだ」と言う思考スタイルがある。平たく言えば、意地悪だ。 「お友達にひどいことをしても、『それみたことか』と逆なでするようなことを平気で言う」というのはこれであろう。また猫殺しについて「表情一つ変えずに言った」と言うのは、相手をビビらせて優越感を感じるためであり、見事に目論見通りの成果をあげている。また、 「仕返し好き」も、加害者少女がいかに力関係に関してこだわりがあったかを示している。彼らにとって、やられっぱなしは「負けた」と言うことになるのである。

 

少女の絵


  以上、加害者少女は、神秘性や逸脱思考からは程遠いむき出しのパワーの世界に生きていた、とするのが妥当であろう。つまり、基本的に、 「あちら側」のシゾイド・スペクトラムではなく、欲と無慈悲と道徳観欠落の反社会性人格障害の住人だったのである。
少女の自画像は、週刊誌に発表され、ネットでもすでに相当出回っている。ここにも、月や太陽や仏像頭部のバモイドオキ神ではなく、単に「ちっともラブリーではない」という威嚇性を見ればよいだろう。

 他にネットに出回っているものに、二枚の絵がある。裏が取れていないので、解釈には慎重になるべきかもしれない。だが、傘をさしているほうの絵には「近寄るな、情けない、キモイ、消えろ、カス、最低」などと書いてあり、反社会性人格障害の基本的な世界観を表している。周囲は皆敵であり、自分を攻撃しようとしているのだから、自分のほうも、周囲をどのように攻撃しようとも正当である、と言う世界観である。(絵画の解釈は多分に主観的になりがちであり、また新しい材料が現れれば解釈を変更する必要も出てくるだろう)