矢幡洋の犯罪心理学と事件-日々の考察

犯罪事件コメンテーターとしてTVに出ることがあります。社会の出来事や自分の体験を心理学的に考察します。3日に一度、昔、単行本などに書いた少年犯罪分析を連載します。自分で取材した古い事件もあります。他、本家ホムペ・ブログ更新情報も告知します。

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連載少年犯罪検証003長崎「サディスティック女児の思い出」参

連載少年犯罪検証長崎「サディスティック女児の思い出」参

長崎佐世保女子児童同級生殺害事件

このタイプは、何かの症状が出るほどのストレスを自分で感じていることは少な

い。むしろ問題なのは、攻撃的なので周囲が遠ざかり、社会的に孤立する、とい

うことなのである。だが、この女児は被害女児を含めて周囲との交流があった。

このサディスティック・パーソナリティーにしては珍しい社会的交流は、しかし、

同時にサディスティック・パーソナリティーには珍しいストレスを抱え込む原因

にもなった。

 だが、ここでひとまず、別の話をしたい。

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 まず、サディスティック・パーソナリティーの特徴を備えた小学生女児の心理

療法に約20年前に経験している、という個人的な体験を紹介したい。その女児

の年齢は8歳。私と妻は共に臨床心理士として長年カウンセリング活動に従事し

ているが、私はスーパーヴァイザーとしてかかわり、直接的には妻が同女児のプ

レイセラピーを担当した。

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 プレイセラピーとは、いわば「いっしょに遊ぶ」という方法による子供に対す

る治療法であるが、毎回凄惨な場面が展開されることとなった。空想上の「お

棺」の中に妻をとじこめさらに女児が自分の糞べんを垂れ流すという葬式ごっこ

などの象徴的な加虐的行為に加え、押し入れの中に妻を10分以上とじこめたり、

時には手刀で突くなどの直接的な暴力行為に及んだ。「子供に好きなように遊ば

せることに治療性があり、心理療法家は子供の遊びの展開に忠実で有るべき」と

いう原則を守り、妻はこの女児が攻撃性を発散するのをひたすら受容することに

徹したのだが、今振り返ってみるとそれが最善であったのかどうか私たちにもわ

からない。だが、女児の当初問題となっていた精神症状はほとんど消失し、自ら

治療からの卒業を宣言して一応成功裏に終結した。

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 「それぐらいの年齢の子供は、昆虫の足をもぎとったり、元来残酷な一面を持

つのではないか」と言われる方もあるかもしれないが、それは「昆虫の足をとっ

たらどうなるのだろう」というような幼い好奇心の現れにすぎないことがほとん

どである(その感情表現が人間と類似している哺乳動物に虐待を加えるのは、か

なり意味が異なり、要注意であるが)。

 だが、妻が担当したその女児は、例えばお話づくりの中で「お父さん」に「水

責め」「サメ責め」「幽霊責め」などの拷問を延々と与えるというような「相手

に苦痛を与える」そのことに異様な執着を持っており、私たち夫婦が経験しえた

児童心理療法の中では男女を通じてこれほどの加虐性を示した子供はこの一例の

みである。私たちの経験の範囲内ではこれほどの加虐性を示す児童は「極めてま

れ」としか言いようがない。だが、同時に言いうることは、たとえたった一例で

あっても、「十数年前から突出した加虐性を示す女児は存在した」と私たちは結

論できるということだ。

連載少年犯罪検証002長崎「少女の競争心」弐

連載少年犯罪検証長崎「少女の競争心」弐

長崎佐世保女子児童同級生殺害事件

 あるメディアが、加害女児がコマ回し講習会に友達と参加した時のことを原稿

用紙9枚に書いていることを紹介し、そちらの方が加害女児のあどけない一面で

あった、と位置付けているが、私の見方は違う。「友達は私が回される前にもう

回っていました。クラスでも私がいちばん回し方を覚えるのが遅かった・・・か

も」「次は練習で加減を調整し、上手な人に負けないくらい頑張りたいです」と

ある。このような遊びにおいてすら、他人との優劣を意識しているという点が、

この女児の基本的な競争心の強さを表しているように感じるのである。

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 なぜ、このような性格傾向が形成されたのか十分な情報は無いが、週刊誌報道

などによれば、周囲の母親からは、「加害女児の母親は、女児が友達にからかわ

れたら、すぐ学校に文句を言いに行くタイプ」という証言もあり、また、加害女

児が荒れ始めたきっかけと考えられているミニバスケットボールクラブ退部の件

に関しても母親が「宿題ができなくなるから」「成績が落ちるから」などの理由

でやめさせた、とも報道されている。

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 犯罪報道などで、「親の愛情が足りなかった」などの安易な因果関係に陥るこ

とは警戒した方がよいが、現段階の情報としては、母親自身が子供の勝ち負けに

こだわる競争的な態度を持っていたのではないか、と憶測することはできる。

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 「勝った、負けた」にこだわるサディスティック・パーソナリティーは、何を

持って他人に「勝った」と見なすのであろうか。これは、個人によってさまざま

な現れ方をする。他人を自分の号令に従わせることによって優越感をかんじよう

とする「しきりたがり屋」や、「相手に、屈辱感を味合わせてやった」というこ

とを持って勝利の喜びを感じる「いじわるな人」は、私たちの日常生活でも時に

出くわすタイプである。

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(このシリーズは、10年ほど前に中央公論その他の雑誌や単行本にまとめたもの

で、現在の僕の「減刑カードとしてのアスペルガー障害精神鑑定濫発→犯罪予備

軍という偏見助長」という問題意識とは視点が異なります。「あなたの子供も犯

罪を犯すかも」と親の不安を意図的に煽ろうとする一部マスコミの意図をテレビ

コメンテーターの役割の中で感じる機会も多かったです。僕は一つの事例として

犯罪少年の心理に興味があっただけで、「わが子を犯罪者にしないためには」な

どと案ずるよりも「わが子を交通事故にあわせないためには」などを考えた方が

一万倍有益だと思っています)

本日テレビ出演予定(日本テレビ『ミヤネ屋』にて飛鳥被告保釈時の心理状態VTRコメント)

 本日13:56より日本テレビ『ミヤネ屋』にて、テレビVTR出演予定、飛鳥被告保

釈時の動作などから、飛鳥被告保釈時の心理状態について私が短くVTRコメントす

る予定です。番組の最初がこのコーナーになる可能性が高いようですが、私のコ

メントがどこで使われるのかまではわかりません。

連載少年犯罪検証001長崎「この少女がアスペだって?」壱

連載少年犯罪検証長崎「この少女がアスペだって?」壱

長崎佐世保女子児童同級生殺害事件

 この事件は、国際的にみても極めて特殊なものであり、ここから何らかの一般

論を引き出すことには慎重でありたい。社会の風潮よりも、加害女児の個人的病

理が色濃く反映された事件であり、私は、加虐性(サディスティック)パーソナ

リティー障害の概念によってかなり大きな部分の説明が可能なのではないかと考

える。

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 長崎幼児殺害事件の報道の頃から「性的サディズム」という言葉がいささか独

り歩きの相を呈していたが、ここで述べているサディスティック・パーソナリテ

ィーとは、性格の全体的な傾向についていわれる概念であって、性的サディズム

とは直接の関係は無い。パーソナリティー障害の診断は人格形成途上の未成年者

には原則的には当てはめないことになっているので、「成人のパーソナリティー

障害の一つであるサディスティック・パーソナリティーをモデルとすると加害女

児の行動がかなり説明できる」という限定付きの仮説である。「限定付きの仮

説」とするもう一つの理由は、このカテゴリーは、米国の何人かの有力な研究者

が「独立した診断カテゴリーとして位置づけるべき」と主張しているにとどまり、

国際標準とされる精神疾患の診断カテゴリーには正式採用されていないからであ

る。

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 私が依拠している、パーソナリティー障害の国際的な最高権威とされるセオド

ア・ミロン(ハーバード医科大学精神医学元教授)もその一人である。ミロンは、

サディスティック・パーソナリティーの最も基本的な特徴を「他人より優越しよ

うとして過剰な競争心を持っている」というところに見ている。このタイプは、

「優越したい」という願望がきわめて強く、競争心が強く、譲歩せずに戦闘を選

ぶ。