矢幡洋の犯罪心理学と事件-日々の考察

犯罪事件コメンテーターとしてTVに出ることがあります。社会の出来事や自分の体験を心理学的に考察します。3日に一度、昔、単行本などに書いた少年犯罪分析を連載します。自分で取材した古い事件もあります。他、本家ホムペ・ブログ更新情報も告知します。

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人物本位採用の終わりを告げる小保方さん問題 | 茂木健一郎が言っている理念はもう賞味期限切れ

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ことの起こりには美しすぎる 「人物本位採用」

茂木健一郎、吼える

 また吼えた茂木健一郎氏(以下敬称略)。問題となったツイートを引用しておこう。


茂木健一郎 @kenichiromogi
あのさ、マスコミ諸君、マジで質問したいんだけど、小保方晴子さんの理研による採用が、通常と違うプロセスだったって、何が問題なんだよ? すべての採用者を同じ基準で選ばなくちゃいけない、という法律でもあるのか? 君たちのその報道姿勢が、日本のイノベーションを妨げているといい加減気づけ!

 さて、それでは、小保方氏の採用プロセスがどういうものだったのか、まとめてみよう。

 

 

美しすぎる人物本位採用

 

 

 

1.2012年4月27日、小保方氏は理研神戸事業所でSTAP現象に関し説明した。


2.時期は前後するが、採用時にCDBの竹市センター長が野依理研理事長に提出した推薦書類には、iPS細胞のがん化リスクが挙げられ「新規手法の開発が急務」と提言されていた。


3.同年10月、発生・再生科学総合研究センター(CDB)は特に幹細胞研究者の採用を掲げ、新任PI(研究室主宰者)の公募を開始。11月の非公式な打ち合わせで小保方氏が候補となり、西川伸一・ 当時 の副センター長が小保方氏に応募するよう打診した。


4.人事委員会は過去の論文や応募書類の内容を精査しないまま面接を行い、 (小保方氏は重要な申請書を締め切りまでに提出できなかった) 採用内定。 実は、提出された小保方氏の研究計画書の英文は、米ハーバード大が提出したSTAP細胞関連の特許出願書類と同一の文章が多数あった 。 人の細胞として示していた画像が、マウスの細胞を使った博士論文の画像の転用だった。


5.英語による公開セミナーを省略し、これに代わる非公開セミナーも行わなかった。


6.竹市氏や笹井芳樹副センター長は、小保方氏には論文を完成させる経験が不足していると認識していた。竹市氏は論文の作成指導を笹井氏に依頼した。
小保方氏のデータ管理は極めてずさん ・貧弱 で、実験の検証・追跡を不可能にした。

  理研発生・再生科学総合研究センター(神戸市)に設置された自己点検検証委員会がまとめた報告書案 は「小保方氏の採用は、必要とされるプロセスをことごとく省略する異例ずくめのものだった。研究者としての資質と実績を評価して、というよりも、iPS細胞研究を凌駕(りょうが)する画期的な成果を獲得したいとの強い動機に導かれた可能性が極めて高い。」「日本の代表的機関で起こったとはにわかに信じがたいずさんさ」と批判した。



 昔叫ばれた「日本的人事制度の弊害」

 


 少し昔の話になるが、 「日本的な人事採用の弊害」が声高に叫ばれた時期があった。学歴が重視されている、だから「人物本位」で人を選ばなければ日本企業の旧態然とした体質は変わらない・・・そこで「旧来の日本的採用方法」の問題として挙げられたのは、次のようなことであった。昇進などにおいても、ピラミッド型の階段を1つ1つ上っていくスタイルが取られ、思い切った抜擢は滅多に行われない。これによって、能力のある人材が裁量をふるえるチャンスが遅れる。ピラミッド型組織は1つの決断をしたの窓から最上層まで上げていかねばならず、硬直する。そもそも、人事が慎重すぎる。昇進に当たっても、上から、下から、横からの評価が、長期にわたって人材の評価となってやっと昇進が決まる。それで、結果としては、 「どこからも文句がつかない中庸な人材」が選ばれることになる・・・このような批判は、大学の入試制度にまで影響を及ぼした。ときには「一芸入試」などと呼ばれた。その背後には、 「人材評価は多様であるべきであり、 『そつなく、まんべんなくこなす』秀才タイプだけが選ばれている。他の点は欠けていても、 1点において突出したものを持つ人材を積極的に評価するシステムが必要だ」 。ピラミッド型組織からフラットな課題志向のチームがアメーバのように発生・派生・解体・再構成されて、変化のただなかで最も重要性の高い課題を自ら設定するフレキシブルな組織でなければならない。だから、大胆な権限委譲が行われ、課題志向のチームが大きな自主裁量権を持つことになる。

 

 

模範的なまでの「大胆な人事」


 

 

 さて、以上の小保方さんの採用プロセスを見るならば、これは、 ひと頃「日本の保守的組織の硬直的パターンを打ち破る人材登用」と美化されたスタイルとほぼ同じなのではないだろうか。トップダウンで、中間管理職のチェックなくして「緊急の課題」が設定される。他の点について欠けるところは多々あっても、高い意欲を持ち、 1点において突出した人材を高いチームのリーダーに抜擢する。チームは、ピラミッド型の機構から独立性が高く、大きな自主裁量を任されている・ ・ ・もし小保方さんが何らかの成果を上げていれば、 「大胆な人物採用の成果」として美談化されていたことだろう。

 



 人物登用の大チョンボは防げなかった


 

 茂木健一郎が叫ぶところは、 「型破りな才能を人物本位で抜擢する新人事システムこそが、日本社会にイノベーションをもたらす」と言うもはや20年近く前に声高に唱えられてきたことを彼が素朴に信じこんでいるということを示すに過ぎない。小保方さんの採用によって、 1つの組織がほとんど壊滅するほどの致命的打撃を受けた-これは、美しすぎる「人物本位の採用」が、いったんチョンボを起こせばどれほど社会を破壊するか、という事例としても見ることができるのだ。

 

もう見直そう、美しかった夢を

 

 

 

 

 もちろん、相互にチェックし合うピラミッド型組織に戻ればそれで良い、と言う話では無い。だが、この間日本社会に蔓延した「型破りな才能を人物本位で抜擢する」ことへの信仰に近い期待はそろそろ見直す時期に入った方が良い。

 

 

「人物本位の採用」は実は不公平だ



 心理屋の僕が、小保方さん問題を踏まえて今後日本の人材評価はどうあるべきか、という提言まではできない。ただ1つ、ぜひ強調したいことがある。それは、 「人物本位の抜擢」システムには、そのシステム独特の不公平さと不合理を含んでいるということだ。つまり、 「面接官の前で、実力以上のパフォーマンスを披露する」ということに長けた性格タイプが存在する。自己愛性パーソナリティーと、演技性パーソナリティーである。前者は、自己評価が高すぎ、できもしないことを平然と歌い、他人の印象操作に長けている。後者は、 「他人に振り向いてほしい」欲求が根本にあり、自分を目立たせたがり、そのためには、大風呂敷を広げて高い理想を語る。外部の刺激につき動かされ、細かいルーティーンや原則順守といった自己コントロールが苦手である。

 

自己アピール上手が過大評価される時代

 



 今のところ、僕は小保方さんはおそらく後者のタイプに属するのではないかと想像している。ウットリ屋さんの夢見る乙女だが、シビアな自己チェックは非常に苦手である。このようなタイプの人々がアメリカ社会で過大評価を受けやすい事はミロンが力説している。そして、日本でも「人物本位の抜擢」に置いて短時間の自己表現が苦手な性格タイプは、実力以下の評価しか受けないという不利を被ることになる。

 いずれにせよ、この問題をきっかけとして、最近のトレンドに抗して、日本社会での人物評価のあり方を再考する必要があるのではないだろうか。