矢幡洋の犯罪心理学と事件-日々の考察

犯罪事件コメンテーターとしてTVに出ることがあります。社会の出来事や自分の体験を心理学的に考察します。3日に一度、昔、単行本などに書いた少年犯罪分析を連載します。自分で取材した古い事件もあります。他、本家ホムペ・ブログ更新情報も告知します。

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佐世保・高1女子殺害事件への心理的解釈 | 加害者同級生は秋葉原通り魔事件犯人を思わせる

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この事件は、秋葉原通り魔殺人事件と動機面において近いのではないかと思います。すなわち、 「事件をなるべく大きなものにして世間にインパクションを与えてやろう」と言う動機による事件です。自己顕示的と言っても良いかもしれません。背後には、加害者の高校1年女子生徒の反社会性人格障害自己愛性人格障害が入り交じった特異なパーソナリティーが存在します。

1 、 「憎かったから殺した」のではなさそうだ


まず、被害者生徒に対する敵意・憎悪に基づくものとは考えにくい点があります。


1 、被害者生徒が加害者生徒の一人暮らしに短期間で2回尋ねている

 被害者生徒は、数日前に加害者生徒と「遊ぶ」約束をしており、その約束が流れたために26日に加害者女生徒宅にひとりで行っています。もし、 2人の間にトラブルが起こっていたとすれば、数日前に流れた約束を再び果たすために加害者の一人暮らしの部屋に差し向かいになるような状況に飛び込んで行くでしょうか。 「遊びに行く」と言う言葉からも、被害者生徒は、危害を加えられる可能性など全く想定していなかったことがわかります。また、学校側は、 2人の間にトラブルがあったとは把握していない、としています。


2 、口論などで、衝動的に・ ・ ・とも違う


加害者生徒は、事前に、 「後頭部を殴る鈍器」 「首を絞める紐」 「遺体を切断する鋭利なもの」などを用意しています。つまり、事前に冷静に計画されて行われた殺害行為と考えるべきです。もし、 1時の衝動で殺害してしまったというのなら、殺害したところで目的はすむものであり、それ以上に遺体を切断する労力を使う理由がありません。また、 26日7時に被害者生徒は「 7時に帰る」と親に電話しており、その後の惨劇は全く予想していません。 2人が一緒にいた大半の時間は通常の「遊び」であったと思われます。

2.病的精神状態の下での殺人ではなさそうだ

 このような遺体損壊事件としてよく知られたものに、 「神戸男子小学生殺害事件」(酒鬼薔薇事件) 「福島母親頭部切断事件」があります。


1.上の2つの事件とも、事件直前に犯行少年は周囲に奇異に思われる言動をとっています。酒鬼薔薇事件では、自転車に乗って通りすがりの女児の頭部をハンマーで殴るという事件を起こしています(うち、 1人が死亡) 。また、周囲に「懲役13年」と題された奇妙な詩を見せるなど奇妙な行動をとっています。福島母親頭部切断事件では、犯行前に学校に行かなくなっています。加害者女子生徒に、もしも病的な言動が増えていたら、松尾さんは加害者女子生徒の家には行かなかったのではないでしょうか。また、学校側も、加害者女子生徒の行動に特に奇妙なものは見ていなかったようです。


2.上の2つの事件とも、損壊した遺体を奇妙な儀式的・魔術的な方法で処理しています。酒鬼薔薇事件の場合には、殺害した男児の口に犯行声明をくわえさせ中学校の門の上に置いていました。福島母親頭部切断事件の場合には、切断した母親の上を植木鉢に植えて奇妙なオブジェを作っています。いずれも、本人にとっては魔術的な意味があったのでしょうが、はたから見れば、異常なシンボル的世界の中に迷い込んでいたことを思わせます。しかし、この事件においては、遺体を儀式的・魔術的に処理するという事はしていません。 「酒鬼薔薇事件」 「福島母親頭部切断事件」とは異なる精神圏のものと思われます。秋葉原通り魔殺人事件の場合にも、目的は「空前絶後の大犯罪を起こす」ということであり、能率的な殺害方法が事前に考えられただけで、奇妙な意味を込める行動は見られませんでした。


3,松尾愛和さんが殺害された理由


ともかく、加害者生徒の頭の中は「ショッキングな殺人事件を起こしてやろう」と言うことでいっぱいであり、なぜ被害者生徒が殺害されたかと言うと、 「松尾さんならば、声をかければ、ひとりで自分の家にやってくるだろう」と思える相手だったからです。


1 、ぼくは、加害者女子高校生を反社会性人格障害の疑いがあると思っています。彼らは、他人の心理的弱点を読み取り、そこに漬け込む事は得意中の得意です。松尾さんも加害者女子高生と中学・高校と同じ学校で、同級生でもあり、 「相手を、疑わない」人だったのでしょう。だからこそ、加害者女子は松尾さんを大犯罪のターゲットとして選びました。 松尾さんが特別憎かったわけではなく、ただ単純に「大犯罪を1番実現できそうな被害者だと判断したからだ」に過ぎません。松尾さんの性格の良さにつけ込んだわけですから、 「他人の心理的弱点につけ込む」と言う点では卓越した国一宮を持っています。数日前に誘ったが都合がつかなかったのをまた誘う-と言うように、加害者女子高生は松尾さんにしっかりとターゲットを絞っていたのです。


4 .遺体を切断した理由


1 、カモフラージュの目的ではありません。松尾さんが「これから帰る」と言ったのは夜の7時であり、すぐに帰りが遅いと心配されてしまう時間帯であり、そんな時点から遺体を解体しても隠蔽し終わる前に松尾さんの親が訪ねてくる事はわかりきっていることです。


2 、遺体を切断する道具まで準備していたことから、完全に事前に計画された行動でした。首を切断したことは、事件をショッキングなものにするために欠かせない残虐性だと加害者女子高生は考えたのでしょう。特に魔術的・儀式的意味はなかったと思われます。


3 .通常、遺体を切断するなどという行為は、激しい嫌悪感を引き起こします。また、後悔や恐怖心がブレーキをかけてしまいます。加害者女子高生は反社会性人格障害であり、通常の人間に起こるはずの後悔・恐怖などは起こらなかったと思われます。


5 .インターネットに書き込みを行った理由(加害者女子高生が行ったものかどうか、確定しているわけではありませんが)

 

1.事件を広く知らしめ、社会にショックを与えることな目的だったので、人目に付きやすい2ちゃんねるに書き込みをすることは、最初から目的に入っていたとおもわれます。


2.酒鬼薔薇事件の場合には、犯人は、切断した頭部を中学校の校門の上に置き口に挑戦状をくわえさせると言うダイレクトな方法を用いました。これに対して、加害者女子高生の書き込みは、情報を小出しにし、 「まさか、この書き込みは本当か? 」と関心を引き起こすような「釣り」的な書き方をしています。また、 遺体ではなく、血まみれの自分の指の写真をアップするなど、情報の出し方が小出しで、逆に読む人を惹きつけるような工夫をしています。 「脳髄ってどんな色か知ってる? 」と言う質問を行うことも、相手の関心を引く一ひねりしたやり方です。人間の心理的弱点に対して嗅覚が鋭い加害者女子高生ならではのやり方です。


3 . 「どうしよう」と困ったフリを見せたり、 「お風呂に入る」など身なりのことを考えるなど、 「女性が書いたもの」と言う印象を強めています。 「女性が行った犯罪」を強調することが事件を大きくすると加害者女子は考えたのでしょう。


6 .加害者女子高生の人間像


1 、反社会性パーソナリティ障害と思われます。このタイプは、周囲を騙すことが異様に巧みであり、犯行の日になるまで「問題のない、普通の生徒」を装って周囲の目を欺くことができました。


2 . 「 1人でやった」 (こういうところに、自らのパワーを誇示する自己顕示的なものを感じますが)と言うところで、計画を立案し1人で最後まで実行するという(悪い意味での)独立性と行動力を持っています。


3 . 「殺人して、首を切断」と言う事は早くから考えていた可能性もあります。高校に入って、一人暮らしを始めた時に、すでに「犯行現場とするためには、家族の目が届かないことが必要」と考えでいたのかもしれません。加害者女子高生は異様なまでに独立的で他人に依存をしないため、親も「ひとりで暮らさせても大丈夫」と安心させるところがあったのかもしれません。


4 .心の奥底に「本当の自分は、周囲の凡人どもから超絶したものだ。誰にもできないことを成し遂げてみせる」と言う自己愛が存在したのかもしれません。


5 .反省の言葉を口にしないなど、他人の命をなんとも思っておらず(共感性の欠落) 、道徳心・共感性が欠落した人物と思われます。それよりも、 「自分1人の力で、大仕事(悪い意味の、ですが)を成し遂げた」と言う達成感しか今は無いのかもしれません。

 

 以上、今ある情報の中で無理のない心理的解釈はここまでだと思います。新しい情報が出れば、変えなければならない点も多々存在するだろうと思います。