矢幡洋の犯罪心理学と事件-日々の考察

犯罪事件コメンテーターとしてTVに出ることがあります。社会の出来事や自分の体験を心理学的に考察します。3日に一度、昔、単行本などに書いた少年犯罪分析を連載します。自分で取材した古い事件もあります。他、本家ホムペ・ブログ更新情報も告知します。

「元の世界に戻して」被虐待児は成長した後、解離障害に襲われる。その後・・・この部分は8月31日までネット上で無料立ち読みできます!
もし元不登校児の娘が自閉症だったら
「ママなんか死んじゃえ」衝撃の著者家族ノンフィクション!   

小保方晴子入門 | 佐村河内氏会見と7ラウンド制でチェック

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何ヶ月もマスコミを賑わせたSTAP細胞も、笹井さんの自殺によって、曖昧の形なまま沈静化していきそうな気配です。以前から、小保方さんのキャラクターについてはいろいろと取りざたされてきましたが、私の目から見たまとめをここら辺で出しても良いと思います。僕は、小保方さんの釈明会見は、某テレビ局の1室でメモを取りながら最初から最後までかぶりつきで観察していました。その少し前に佐村河内守氏の謝罪会見も同様の形で見ているので、いくつかのチェックポイントから両者を比較してみたいと思います(「佐村河内氏との対比」と言う形によって、何らかのバイアスが生じている可能性は否定しません) 。とりあえず、 「どちらが『強さ』を見せているのか」と言う点に絞ってチェックします。

第一ラウンド 会見前
小保方氏 直前まで、会見できるかどうか分からない状態。ずっとつきそわれていた。
佐村河内氏 自力で会場を手配。
・・・10対0で佐村河内氏

第二ラウンド 服装
小保方氏   膝丈の紺色ワンピースにパールのネックレスというクラシカルスタイル。母親が用意した数着の中から弁護士と一緒に選んだ。ファッションジャーナリスト日置千弓氏「非常にフェミニンで驚きました」
佐村河内氏 それまでの「神秘的芸術家」 をイメチェンする短髪姿(今までの格好だと、マスコミに目立つので、と発言) 。ノーネクタイ。ワイシャツの2番目のボタンを外しそこによく指を引っ掛けていた。
・・・10対5で小保方氏

第3ラウンド 立ち上がり
小保方氏  まばたきが多く、周囲を何度か確認してから座る。
佐村河内氏 イメチェン姿で自分でマイクを取り、開始を宣言する。
・・・10対0で佐村河内氏
 
第4ラウンド 謝罪部分 
小保方氏  自らの「自分の能力を超えていた」「不注意、不勉強、未熟さ」を謝罪するが、「悪意はなかった」事は強調。
佐村河内氏 司会者を頼んでいないので終始自分でリード。最初は謝罪するも、 「現代音楽の方向性に疑問を感じていた」と正当性を強調。
・・・10対5で佐村河内氏

第5ラウンド 質問部分
小保方氏  どのマイクを使えば良いのか、隣の弁護士の指示を求める。
佐村河内氏 質問する質問者を自分で指名する。 「難聴は本当にあったのか」という方向に話を運び、 「聴力を失った作曲家として世間を欺いてきた」問題についてはほとんど触れさせない
・・・10対0で佐村河内氏

第6ラウンド 終盤部分
小保方氏  複数の質問者が「トカゲのしっぽ切りだという不満を理研に対して持っているのではないか」という誘導的な質問を行うが、それに乗らず「私の責任」と繰り返す
佐村河内氏 「新垣さんを訴えます」と宣言
・・・10対0で佐村河内氏

第7ラウンド ハイライトシーン
小保方氏  目を輝かせて「STAP細胞はあります! 」 
佐村河内氏 暴露記事を書いた記者の挙手を自ら指名し、逆ギレに近い口論となる
・・・10対5で佐村河内氏

 

 

「一人で乗り切ってみせる」 佐村河内氏、「誰かに助けて欲しい」小保方氏

 

  これは、スコアを見るまでもありません。小保方氏の「強さ」が勝っているのは、 「謝罪の姿勢を押し出した服選び」だけでしょう。これすらも、母親が候補を挙げ弁護士が選んだそうです。 「 1人では決められない」弱さが、 「自分ひとりで乗り切ってみせる」という佐村河内氏にはるかに及ばないのです。ただし、ここでいう「強さ」と言うのは、 「図々しさ、ふてぶてしさ」と同義ですので、こんなシチュエーションで「勝った」ところで、全然いい話ではないのですが。 (これは、 「男性と女性の違い」に簡単にきすることはできません。酒井法子さんのような、覚せい剤反応が抜けるまで身をひそめ、隅々まで自己コントロールされた謝罪会見を行うという強靭なまでの意志力を見せた女性もいるのですから)

 私が言いたい事は、よく似たもの同士とされたりする小保方氏と佐村河内氏ですが、その基本的なパーソナリティー・スタイルが全く異質であるということです。佐村河内氏は、 「昔、比較的軽度の難聴が証明されたことがある」というただ1点の材料を用いて「反撃できる部分が少しでもあれば、徹底的に反撃する」と言う攻撃性、さらには最も手ごわい相手を自ら指摘して口論をたたかわすという怒りの強さと捥自慢が顕著です。

 

ただ小保方氏の方が本質的に派手好きなのだ

 

 何度も弁護人の方を見る小保方氏の本質は、依存性にあります。ただし、彼女の場合、 「他人から好意を持たれたい」と言うことの手段として「外見を飾る(ピンクの研究室、割烹着)」 「聞こえの良いこと(STAP細胞)を言う」などの「素敵さ」を誇張することによって、他人の好意を勝ちとろうとする積極策に出るところが特徴的です。このような外見的効果に重点が置かれているタイプを演技性パーソナリティーと言うのですが、そろそろ枚数がなくなってしまいました。

 

 

 

矢幡洋の精神医学と心理学ブログ更新情報

[はてなブログに投稿しました大切な人に自殺された時にあなたに起こる5つのこと | 笹井さん遺書を考えつつ - 矢幡洋の精神医学と心理学-学術からライフハックまで幅広く http://t.co/hY4VyWsAkm]

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「佐世保殺人高1女子女子=女酒鬼薔薇」を撤回する | パワーと欲と支配の世界にて

 

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統合失調症型ゾーンか、自己中心ゾーンか

 

 私は、佐世保高1女生徒殺害事件の加害者A子を酒鬼薔薇事件の少年Aと似たタイプとしてとらえて両者を比較した記事を書き、 「女酒鬼薔薇」と位置づけた。だが、現在入手できる限りの情報の範囲では、加害者A子は酒鬼薔薇とは全く別のタイプと考えるべきだと思っている。
自分がどこで判断を誤ったのか振り返ってみよう。それは、酒鬼薔薇のようなシゾイド・スペクトラム(特別病的とまでは言えないシゾイド・パーソナリティーから統合失調症までを含むゾーン。犯罪傾向が強いわけではなく、犯罪者の中にたまにこのタイプがいるというだけの話)とみるか、反社会性ゾーンとみるか、と言う全く異なる人間像の重要な違いによる。前者は、アンナ・ホーナイが「他人から距離を取ろうとするタイプ」とし、後者は「他人と競おうとするタイプ」とした(後に、ミロンが「自己中心的グループ」としてまとめたものである) 。

 

ミスリーディング-解剖願望の起源はたどれない


  私が、加害者A子を酒鬼薔薇タイプと考えたのは、その後の報道で「人を殺し、解剖したい」と言う願望の出所を示すものがなかったからである。とすれば、とりあえず理解不可能なものとして位置づけるしかない。それは、通常の人間心理の埒外から出てくる説明不可能な願望である、としておくしかない・・・ところが、ここ1週間ほどで、 「加害者A子が解剖図を所持していた」と言う情報や、 「身体の内部に興味があった」などの情報が相次いだ。また、 (父親に、 「対外的にはそう言うように」と指示されていた様子だが) 「検事になりたい」と言い始める前には 「医者になりたい」と言っていたらしい。

 

レアな「知識欲に基づく殺人」


  つまり、加害者A子の「人を殺し、解剖したい」と言う願望は、 「知的な好奇心から発生した」 と言う出所がつくことになる。事実、加害者A子の知識欲は大変なもので、図書室の本を次から次へと読破し、 「本を読むことで、自分が作られて行く」と言う作文を書いていたらしい。
つまり、これは「知識欲・好奇心に基づく行動」と言う人間的に理解可能なものである。もちろん、その知識の手前にある殺人という垣根をやすやすと越えてしまった事は異常としか言いようが無いのだが、とりあえず「知識欲に基づく殺人」と位置づけることができるのだ。

 

「あちら側」の酒鬼薔薇


  酒鬼薔薇の殺人願望は、はるかに謎めいた起源を持ち、殺害そのものが快楽として感じられる、と言うはるかに通常の人間心理から飛躍したものである。 「唯一やさしかった祖母が亡くなり、愛犬が亡くなり、 『死』に取り付かれた」と言うところに起源がある。それは、 「 瓶の中にカを閉じ込めて、窒息死していく様子をじっくりと眺める」と言うものであり、知識欲と言うよりも、この世ならぬ不可思議な光景に魅入られたところから始まる。やがて、小学校上級生では、殺害する時の猫の様々な様子を楽しみ、マスターベーションを伴うようになった。加害者A子の知的関心と比べると、はるかに「あちら側」である。

 

逸脱思考の痕跡が乏しいA子


  また、私のミスリードは、加害者A子の行動の中に「通常心理からは理解しがたい逸脱思考」があるものと想定し続けたところにある。初期報道の「ネット上に血まみれの腕の写真をアップした」や、 「血文字を書こうとした痕跡がある」などの情報を重く見すぎた。前者は、後に否定されたし、後者もそれを裏付けるA子の供述は発表されていない。


  犯罪事件を、統合失調症ゾーンのものか、反社会性ゾーンのものかを区別するのに、私は、犯行の中に通常心理では理解できない逸脱した奇妙な魔術的思考が見られるかどうかをポイントにしている。前者は、例えば「亡くなった祖父を蘇らせるために殺害した女児の骨を食べた」宮崎勤、人工神「バモイドオキ神」をノートに書き殺人を「聖なる儀式アングリ」と記した酒鬼薔薇、切断した母親の左腕を植木鉢に植えて奇妙なオブジェを作った会津母親頭部切断事件などである。

 

単純な「欲の塊」-反社会性人格障害

 

 これに対して、反社会性ゾーンの犯罪者の動機は、単に「金が欲しい」などの世俗的要求である(復讐目的の犯罪は、個人的にはサディスティックパーソナリティー障害としたいところだが、正式診断名称ではないので、反社会性人格障害のエリアとせざるを得ない) 。彼らにとってみれば、 「切断した腕を植木鉢に植えて、一体全体何の得があるのだ?そんな時間があれば、金目のものをもっと探せば良いのに 」と言うことになるだろう。彼らは、 「あちら側の思考世界」には縁がない。言ってしまえば、俗っぽい「欲の人 」である。ただし、その欲を満たすためにどのような手段を取ろうとも良心の呵責を感じない。そして、加害者A子の場合、欲とは「知識欲」であった。

 

むきだしの力志向

 

 加害者少女Aの幼少期からのエピソードを見れば、彼女が、死にたいして神秘的魅力を感じていた酒鬼薔薇とはまるで異なる精神圏の住人である事は明らかである。


・砂を掘ってありの巣を探し、慌てて穴から出てきたアリを1匹残らず踏み潰すことに夢中
・トカゲの尻尾を摘んで木にたたきつけて殺す
・「足を踏まれたとか、水がかかったとか、ささいなことでぶちキレる。キレた相手の筆箱や鉛筆をゴミ箱に捨てたり、椅子に座っていると無言で机を押し付けたり、『なんでそこまで?』っていうところがあった」
・「『ネコの目って知ってる? コロコロしているんだ』とAが言うので、なぜ、そんなことを知っているのかと尋ねたら、『ネコの首を掴んで、目をえぐって取った。足をナイフで切ろうとしたが、なかなか切れんかった』と表情一つ変えずに言った。ネコはエサを使っておびき寄せた、と説明し、頭のいいAらしいと思ったが、ドン引きした」
・少女Aの母親は生前、同級生の保護者にこんな不安を漏らしていたという。「親でも想像できないいたずらをし、その度が最近、超えていて困っている。人にいたずらを見せて喜ぶようなところがある。私の前ではおとなしくしていたが、お友達にひどいことをしても、『それみたことか』と逆なでするようなことを平気で言う。うちの子は人の気持ちがまったく理解できないみたい」(後者二つは男子同級生の証言)

 

威嚇大好き、仕返し大好き


 週刊朝日2014年8月15日号の記事を見て、私の印象は決まった。
 ここにあるのは、 「不思議な逸脱意味の世界」などでは無い。むき出しの、パワーと支配なのだ。 「アリを踏み潰す」なかには、 「死の神秘的魅力」など存在しない。弱者を蹂躙できる自分が強者であることの喜びに満ちた確信にすぎない。


  反社会性人格障害の(私としては、サディスティック・パーソナリティー障害と言いたくてしょうがないのだが)大きな特徴に、 「相手に与えうる苦痛が大きいほど、自分は強者なのだ」と言う思考スタイルがある。平たく言えば、意地悪だ。 「お友達にひどいことをしても、『それみたことか』と逆なでするようなことを平気で言う」というのはこれであろう。また猫殺しについて「表情一つ変えずに言った」と言うのは、相手をビビらせて優越感を感じるためであり、見事に目論見通りの成果をあげている。また、 「仕返し好き」も、加害者少女がいかに力関係に関してこだわりがあったかを示している。彼らにとって、やられっぱなしは「負けた」と言うことになるのである。

 

少女の絵


  以上、加害者少女は、神秘性や逸脱思考からは程遠いむき出しのパワーの世界に生きていた、とするのが妥当であろう。つまり、基本的に、 「あちら側」のシゾイド・スペクトラムではなく、欲と無慈悲と道徳観欠落の反社会性人格障害の住人だったのである。
少女の自画像は、週刊誌に発表され、ネットでもすでに相当出回っている。ここにも、月や太陽や仏像頭部のバモイドオキ神ではなく、単に「ちっともラブリーではない」という威嚇性を見ればよいだろう。

 他にネットに出回っているものに、二枚の絵がある。裏が取れていないので、解釈には慎重になるべきかもしれない。だが、傘をさしているほうの絵には「近寄るな、情けない、キモイ、消えろ、カス、最低」などと書いてあり、反社会性人格障害の基本的な世界観を表している。周囲は皆敵であり、自分を攻撃しようとしているのだから、自分のほうも、周囲をどのように攻撃しようとも正当である、と言う世界観である。(絵画の解釈は多分に主観的になりがちであり、また新しい材料が現れれば解釈を変更する必要も出てくるだろう)
 

解離性障害は精神医学のオカルトか | 多重人格とか、記憶喪失とか - 「矢幡洋の精神医学と心理学」の記事を更新しました

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解離性障害は精神医学のオカルトか | 多重人格とか、記憶喪失とか - 矢幡洋の精神医学と心理学-学術からライフハックまで幅広く

解離性障害は精神医学のオカルトか | 多重人格とか、記憶喪失とか - 矢幡洋の精神医学と心理学-学術からライフハックまで幅広く http://t.co/740U9VeQ81 妻が体験しているので、判断に当惑するところはあるのですが・・・]

恐れ入りますが、コメント・スター・ブクマなどいただける場合には、一番上のアドレスをクリックした先の記事にお願いします。当記事は単なる更新情報です。

 ええ、もちろん自著を紹介したいこともありますが、うかつにクライアントさんの事例を出すことはできないので、許可の取れている身内の解離障害体験を例に取りました。

更新しました「いい子」に始まる摂食障害 | 僕の妻の場合「食後の眠気を抑えよう」がきっかけだった

[https://twitter.com/yahatayo/status/499001758073368576:embed#はてなブログに投稿しました「いい子」に始まる摂食障害 | 僕の妻の場合「食後の眠気を抑えよう」がきっかけだった - 矢幡洋の精神医学と心理学-学術からライフハックまで幅広く http://t.co/4ceauSVbQ0]

恐れ入りますが、コメント・スター・ブクマなどいただける場合には、上記のアドレスをクリックした先の記事にお願いします。当記事は単なる更新情報です。

 ええ、もちろん自著を宣伝したいこともありますが、うかつにクライアントさんの事例を出すことはできないので、許可の取れている身内の拒食症体験を例に取りました。

 

あれっ・・・自著の被虐待シーンを抜粋・コピーしたブログを発見。全体的には良心的コンテンツでした

  自著と照合したわけではありませんが、妻が虐待されているシーンなどは抜いて抜粋されたのかな、と思いました (でも、この冒頭シーンだけでも、十分に精神的虐待になっているでしょうね) 。 公開されていた内容の抜粋のようなので、まあ、よしとしましょう。 あちこちから、これはと思われた自閉症関連の記事を集めておられるまじめなブログのようですし・・・。 公開終了になっているのを確認しようとググって確認したところ、 現代ビジネス立ち読み電子図書館をコピーされているブログを見つけたという次第です(当ブログのヘッドにあるリンクは、現在公開されている部分を開くようになっています)。

佐世保高1殺人少女Aのサディズム | 反社会性人格障害へとシフトできる2つの理由

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鑑定留置をきっかけに見解を修正する

 

  佐世保高1女子生徒殺害事件の鑑定留置が決定した。その前後の報道で、私の解釈に若干の軌道修正が必要であると感じるようになった。私は、統合失調型人格障害の可能性を指摘していたのだが、それよりも、私が事件に起こった当日夜にテレビ取材を受けた時に指摘したことの方がより妥当性があったと思う-加害者女生徒は反社会性人格障害である。
統合失調型人格障害という線から反社会性人格障害にシフトした、いや元に戻した理由は、主に2つである。

 

「人を殺したい」と言う願望の「起源」、問題は一線をやすやす越えたこと


1 、 「人を殺したい」と言う願望の「起源」があることがわかった

 


  「統合失調型人格障害」ではないか、と私が指摘していた大きな理由は、 「人を殺したい」と言う願望がどこから来たのか説明不可能なものだと思ったからである。 「説明不可能なものを無理にこじつける事は不毛」であり、もっともらしいストーリーを組み立てるよりも「通常の心理から了解できないものは、 『説明不能』として口をつぐむしかない」と思った。それは統合失調症の領域である「あちら側」から来たものとして、口をつぐむしかない(10年近い精神科勤務の中で、僕は統合失調症患者さんの妄想がどうして形成されたかをいちいち説明してみせることが治療に役に立ったのを見たことがない) 。


  ところが、数日前、 「人体の内部に興味があった」と「少女A」が供述しているという報道があった。さらには、一人暮らしの部屋から、解剖図などを含む医学書が見つかったという報道があった。


  これで、 「人を殺してバラバラにしたい」と言う願望の出所があったことになる。
「人体の内部に対する知的関心が高じて、実際に人体を分解してこの目で中身を見たいという願望が強まった」


  少なくとも、ここまでは言えそうだ。 「では、なぜ人体の内部に知的関心が高まったのか」と言うところまで無理に説明するべきだとは思わない。そのような関心は、必ずしも珍しくないからだ。問題は、 「知的関心を満たしたい」 「殺人を犯す」と言う2つの間をあっさりジャンプしてしまった、ということである。 (「人の体の中はどうなっているのだろう」と言う関心そのものは異常とまでは言い難いだろう。ただ、それを満たしたいのであれば、医療関係の職業を目指し、解剖学を学ぶ、というような社会から容認される方法を取ろうとする方が通常であろう)  

 

知的好奇心もあったのか?


 なお、 「小学校6年生の時に『勉強していることを馬鹿にされた』として、同級生女子に4回にわたって給食に異物を混ぜた、と言うことがある。これに関しても、 「 1回ごとに、異なる異物を混ぜていた」ということだったことを、最近の報道で知った。最初の動機が報復であっても、いちど異物を混ぜた時の相手の反応を見て、興味をそそられ、次から次へと「実験」が歯止めが効かなくなった」

 


2 .加害者少女のサディズムが少なくとも学童時代に遡ることがわかった


  これについては、以下のような(紹介が、文章を省略した形になって申し訳ないが)報道を、今朝初めて読み、実は、この記事を書く動機はここから来ている。

 

 

 

加虐性人格障害が最適だろう


 以上の行動は、 『加虐性人格障害』とされるものである。つまり、サディズムである。これが、 1番実態に近いのではないかと思う。ただし、『加虐性人格障害』は、 DSM (アメリカの精神医学会が作成している精神疾患の診断・分類体系で、国際標準となっている)の歴史の中で、いったん正式診断の候補とされたが、結局採用はされなかった、と言う幻の診断名である。現在は、 『反社会性人格障害』の1種として位置づけられることが多いようだ。非常に微妙な線で、実は『加虐性人格障害』のほうに近い。 『反社会性人格障害』は、罪悪感にかけ手段を選ばないが、その行動の目的が「自分の取り分を増やす」と言う功利的な動機であることが多い。それに対して、加害者少女の場合には、特に自分が得をする行動でなくても、 「仕返しをする」 「相手に苦痛を与える」と言う動機が強いからだ。これは、競争的な 『加虐性人格障害』の方が当てはまるように思うのだが。

 

正式診断名「反社会性人格障害」で説明できる

 

 証言を見る限り、少女は、早い段階からサディスティック・パーソナリティーの様相を見せていたのである。そして、先に述べた疑問「人間の体内を見たい」ことの前提となる殺人に何の抵抗もなかった事は、反社会性人格障害の基本的な特徴で説明が可能である。すなわち、反社会性人格障害は、異様に共感性を欠き、無慈悲で、冷血である。罪悪感や恐怖心という感情が起こってストッパーになるという通常の人間のメカニズムをかいている。これによって、 「人体への関心」が「同情・道徳心などのストッパー」をやすやすと乗り越えて「殺人」に至ったことが説明可能である。 (「人格障害」と言う言葉を用いると、 「ただのレッテル張り」と反発する方もいるが、人格障害のカテゴリーの中で、反社会性人格障害は、脳の反応が平均的なそれとは大きく異なることなどの研究成果があり、レッテル以上の「実体」が存在するデータが最も豊富なものである)

 

「無罪放免カード」として「アスペルガー障害」狙い鑑定が下る可能性

 

 そこで、この少女は「サディスティック・パーソナリティー障害」 、現代の正式診断名を用いれば「反社会性人格障害」と想定するのが最も無難であろう。その上で、私の、今後の読みを1つ伝えておこう。おそらく、弁護団が探しだした都合の良い鑑定医師が「アスペルガー障害」と言う診断を下すであろう。アスペルガー障害は、正式な診断名としては消え去ったので「自閉症スペクトラム障害」と言う診断になるかもしれない。国際的に人格障害という診断は何ら減刑の要因にカウントされないのである。 「鑑定医師が下す鑑定が正解」と信じておられる方もいるようだが、 「責任能力なしで無罪放免狙い」には、 「自閉症スペクトラム障害」の方が何とでもこじ付けられる便利なカードなのである。