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矢幡洋の犯罪心理学と事件-日々の考察

犯罪事件コメンテーターとしてTVに出ることがあります。社会の出来事や自分の体験を心理学的に考察します。3日に一度、昔、単行本などに書いた少年犯罪分析を連載します。自分で取材した古い事件もあります。他、本家ホムペ・ブログ更新情報も告知します。

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もし元不登校児の娘が自閉症だったら
「ママなんか死んじゃえ」衝撃の著者家族ノンフィクション!   

実母も殺そうとしていた佐世保高1女生徒 | 家族カンパニーだったのかも知れないが、精神病院専門家は手を引こうとしていたのでは?

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病床まで殺そうとして行ったけど、思い返した

 

 事件以来、最大のショッキングな報道はこれだっただろう-「加害者女生徒は、ガンで自宅療養中の実母を殺害しようとした」 。これで、 「傷つきやすい10代少女」をテーマとするセンチメンタル・ストーリーは完全に崩壊したことになる。 「仲の良かった母親が亡くなって半年も経たず父親がずっと若い女性と再婚し、新しい母親を迎えた敏感な年頃の少女は・ ・ ・ 」事件当初、コメンテーターたちが歌おうとしたこの浪花節は、 「父親の再婚に少女は最初から賛成していた」 「父親が入籍し少女が新しい母親と初顔合わせをしたのは、少女と別居した後」などの報道であっけなく崩れていった。そして、大きく報道された「 (父親は)なくなった母親のことは、もうどうでもいいのかな」と言っていた女生徒自身が新しい継母に「新しいお母さんが来て嬉しい」と早々に乗り換え、一緒に料理をしたりピアノを弾くなど関係は良好だった・ ・ ・それどころか、事件前まで、女生徒が1番良好な関係を維持していたのはこの継母だった可能性が高い。殺人願望は、すべてこの継母に語られたのである。 「人を殺してみたくて、ガン療養中のお母さんの寝室まで行ったけど、思いとどまってやめた」と言う衝撃の事実も含めて。

 

仲良し母娘-でも殺人願望にはあまり関係なかった

 

 この親子3人の関係のあり方は、週刊誌報道などでほぼ概要が見える。
母親と最も良好な関係にあった事は間違いなさそうだ。母親は、東大卒で、地元で放送関係の仕事についた後、地域活動を始め、教育委員の任務についたりNPOを立ち上げるなど活発に活動している。女性とは、幼い頃から笑顔を見せることが少なかったようだが、母親と一緒に犬を散歩に連れて行くときには楽しそうな笑顔を失せていたという。母親は本も出版しているが、少女はその本の表紙の表題とイラストを担当した。 「すごく仲が良い」母娘に見えていたようだ・ ・ ・後日、殺そうとしたわけだが。

 

「尊敬している」「ゴミ」-父親への使い分け

 

 父親との関係は把握しにくい。だが、 1つははっきりしている。少女は、父親のことを語る際、人前なのか身内だけなのかではっきりと表現を使い分けていたということだ。中学の同窓会では「父を尊敬している」 「育ててくれてありがとう。これからもよろしくお願いします」などと言っていたが(父親の再婚が決まった後に校内英語弁論大会のスピーキングはじめに「私の父はエイリアン」と言ったということが意味ありげに報道されたが、「エイリアン」のニュアンスがポジティブなものだったのかネガティブなものだったのか、わからない)母の49日前後に少女と主張乗せたタクシー運転手は「娘が父親を『あんた』と呼んでいた。会話はほとんどなかった。違和感を感じた」と証言している(女性セブン) 。また、友人の前で父親のことをゴミと呼んだという。

 

父親は 『夢、自由』-家族には微妙な違和 

 

 さて、弁護士の父親であるが、本職では有名企業の顧問弁護士を務めるなど、非常に腕利きだったらしい。ただし、標準以上の報酬額を取ったり、訴訟相手を必要以上に叩きのめすような、腕に任せた強引さがあり、同業者の中では反発もあったらしい。「とにかく金持ちで明るい性格の人。佐世保市内の高級住宅街にある豪邸には、自らの好きな言葉『夢いつまでも 自由に生きて』と書いた石碑がある。50歳を過ぎてから有名大学に通い、トライアスロンのサークルに所属したり、法律講座に参加したりと、若い人たちとも積極的に交流し、活動的な人だった」(父親を知る関係者zakzak8月2日)と言う。隣には、両親のために家を建てていた。豪邸に住む、佐世保の名士だったのだ。将来は、市長に立候補するのではないかという噂もあった。父親は、周囲には「妻だけには頭が上がらない」と語っていたが、母親のほうは、 「夫は家庭をかえりみず、子供と向き合おうとしない。私の帰宅予定時間も全て報告しなければならない。でも、簡単に離婚できるものではない」と周囲にこぼしていた、と言う証言が週刊誌に掲載されている。

 

「亡き妻の思いを胸に」-美談報道

 

 父親が、長崎県におけるスピードスケートのパイオニア的存在であり、母親は県スケート連盟の会長であり、子供2人も早くからスケートに親しみ、今年1月には親子で国体に出場していた。家族そろっての国体出場が夢だったが、母親が昨年癌で亡くなり、葬式会場では、父親が1時間にわたる「感動的な」弔辞スピーチを行ったという。ただ、週刊誌には「 『最愛の妻を失った夫』を演じている様な違和感」を感じたという証言もある。そして、父親・兄・女子生徒のスピードスケート国体出場が果たされ、父親・女子生徒の写真が載った「亡き妻の思いを胸に」と言う大きな記事が1月30日の長崎新聞に掲載された。

 

「素敵な家族像」を売るカンパニー

 

 私が感じるのは、この一家は特異な「家族カンパニー」ではなかったのかということだ。 「一家で自営業を営んでいる」と言う意味では無い。 「家族それぞれの行動を1つの商品として展示する」ことによって付加価値を獲得していたのではないか、ということだ。 「一家で揃ってスピードスケート」ことも、 「売り]にできるし、 「母親を失いながらも残った家族で国体出場」と言うことも「売り」に出す。このように、 「家族のあり方」によって注目を獲得し、名声を獲得しようとするならば、当然、 「家族のあり方」は美しいものでなければならない。私は「ここにこそ、少女が歪んだ原因があるのだ! 」と叫ぶつもりはない。この程度の裏表がある家族など世の中にいくらでも存在するし、 「家族の行動を商品として展示する」事は、作家ならば多かれ少なかれやっていることだからだ。

 

結局、「手頃であれば誰でもよかった。殺せさえすれば」

 

 この家族の在り方には興味をそそるものがある。だが、女生徒の犯罪を説明するものとしてはあまり意味を持っていない。わかっている限りでも、女生徒は、父親を殺そうとし、母親を殺そうとしたのである。それまで継続していた人間関係が薄かろうと濃かろうと、ほとんど欲望の歯止めに意味を持たなかったと言うところにこそ、この女生徒の大きな特徴がある。報道初期には、 「父親が元凶」といったトーンが目立っていたが、私は犯人探しには興味は無い。最も大切な事は、 「人間を殺して解体したい」と言う願望がまず先にあり、 「誰を相手にするのか」と言うことについては、病床の母親であろうと、寝ている父であろうと、声をかければ訪ねてきてくれたクラスメートであろうと、 「殺しやすい相手であれば誰でもよかった」と言う性格の犯罪であった、ということである。

 

もういいんじゃないか、この父親のバッシングは

 

 個人的には、 「もし直接顔を合わせたら、この父親はあまり好きになれそうにない相手だな」と言う感じはする。だが、自分の娘から「あんた」呼ばわりされることを受け入れていたという事と、半ばパニックに陥りながら、専門家の助力によって娘の危険な状態をなんとかしようと努力していたという点で、特段糾弾しなければならないほどの失態があったとは思えない。

 

精神病院は別居を指示しながら、この一家を放棄しようとしたのでは?

 

 むしろ、もっと大きな問題としては、 2つの精神病院が関与しながら、結局、この家族との関わりから逃げ出そうとするかのような動きしか見せなかったということである。女性セブンの記事によれば、父親に女生徒との別居を勧めたのは精神科病院のカウンセラーだったらしい。そこまで踏み込んだ指示を出しながら、次は、担当医が「殺人を犯すかもしれない」と児童相談所のほうに助けを求める。事件直前に両親が入院の相談に行った時に、 「 1人部屋が空いていない」と言う理由で断り、 「他の精神病院でも、同じ対応だろう」と「精神科病院は、この件では力になれない」と露骨に告げている。おそらくパニック状態に陥った父親は、いてもたってもいられず時間外に児童相談所に電話をして、他の援助先を探そうとしていた。

 

もう家族関係よりも、専門家の対応の方を見るべきだ

 

 精神科病院に長く勤務していた身として、 「それ以上の対応をするには、よほどの準備が必要だっただろう」と言う病院側の事情はなんとなくわかる。どこかの時点で何らかの手立てを打てば防ぎ得たのかどうかということも怪しい。ただ、精神医学や心理学というものが何ができて何ができないのかを表すために、病院側がどのような対応をしたのか可能な範囲で情報公開がされることを願いたい。