矢幡洋の犯罪心理学と事件-日々の考察

犯罪事件コメンテーターとしてTVに出ることがあります。社会の出来事や自分の体験を心理学的に考察します。3日に一度、昔、単行本などに書いた少年犯罪分析を連載します。自分で取材した古い事件もあります。他、本家ホムペ・ブログ更新情報も告知します。

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もし元不登校児の娘が自閉症だったら
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心理コメンテーターのでたらめぶりを告白も含めて切る | 佐世保高1女子殺害の加害者は「女酒鬼薔薇」で詰み

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マスコミの犯罪コメントの正体 (末尾に29日夜20時最新情報を付加)

そのうさんくささ-社会の安心装置

 

 僕は、犯罪コメントをこれまでたくさんやってきた。 「犯罪コメントなんて、有名になりたがっているエセ精神科医や偽心理屋が適当なことを言っているもの]と言う批判がある事はもちろん知っている。本当は、大して意味のあることではないだろうということもわかっている。それでも、社会が心理学用語で事件解説を求めていることは確かなのだ。つまり需要がある。精神医学・心理学用語を使ってもっともらしい作文を1つ作れば、世間はそれで何かが「わかった」ような気がして、安心する。時代は、出来事を何でもかんでも「心理的な出来事」として位置付けることを求めている。コメンテーターの仕事は、社会を「わかったつもり」にさせて、出来事を整理済の棚の中に放り込むことにすぎない。
 それ以上の意義が無い事はわかっていながら、お金がないので仕事を選ぶことができない。テレビコメントの依頼が来たら、断らない。

 

話を面白くしないこと-「よりましな悪」を求める


 そんな仕事であっても、僕は心がけていることが1つある。 VTR収録は、たいてい夜遅く、局の1室でいくつかのスタンドライトに照らされ、カメラさんがビデオカメラを構える中で行われる。そういう撮影の際に、僕はディレクターさんに一言お断りをする。
 「ぼくは、話を面白く作る事はしません。ぶっ飛んだ解釈はやりません。今ある材料の中で『ここまでは、ほぼ言えるだろう』と言う範囲のことしか言いません」
かなり怪しげな仕事をしているとは言え、 「言える事は、ここまで」と言う堅実な範囲内に留めておくというのが、僕のささやかな良心だ。
  だから、 「識者」の大半のコメントが「何、話を面白く作っているんだよ」と不愉快で仕方がない。 「お前も同じだ」と言われればそれまでだが、少なくとも僕はコメントはなるべく控えめな方向へ、堅実な方向へとする「よりましな悪」であることを心得ている。

 

「確実に言えそうなこと」に堅実にとどまる方が正解に近づく


 だから、事件が起こったその日のVTR収録で僕が言ったことの要点はたったこれだけだった-「これは、 『犯罪を起こしたい 』と言う動機の犯罪」 「加害者は、松尾さんとの間に悪感情・トラブルはなく、単に『松尾さんならば、声をかければ警戒せずにひとりでやってくるだろう』と言う被害者女子の人柄の良さにつけ込んで犯罪行為に利用しただけ」 「加害者が長時間にわたり殺害・遺体切断という残虐な行為に従事できたのは、罪悪感・恐怖感などの普通の反応を欠落させた反社会性人格障害だったと思われるから」 。そして、ネットの書き込みはその真偽がまだわからない段階だったので、 「一応、一言加えておきましょう」と言うディレクターさんの方針で付け加えた。 「ネットで犯罪行為を公開したということは、秋葉原通り魔殺人事件のように『空前の大犯罪を起こしてやりたい』と言う自己顕示があったからだろう。自己愛性がうかがわれる。もう一つの可能性としては、スキゾタイパル人格障害の可能性があるが、その可能性は薄いだろう。遺体を切断することによって儀式的・魔術的な事を行おうとしたわけではないから」 ・ ・ ・

 

加害者女子生徒と松尾さんの間の確執によるのではないという基本


 一晩経ってみて、僕の解釈は基本的なところで外れていなかった。松尾さんは加害者とその日一緒に買い物までしていた。加害者が動機として「人間を殺してバラバラにしてみたかった」と供述し、 「 『犯罪を起こしたい 』と言う動機の犯罪」で有る事は明らかになってきた。ただ僕はひとつ方向性を間違えていた。この事件と類似しているのは秋葉原通り魔殺人事件では無い。酒鬼薔薇事件である。加害者女子は、自己顕示的な自己愛性が強いと言うよりも、 「不思議ちゃん」の極限であるスキゾタイパル人格障害の方向で考えるべきだったのだ。まぁ、それについては後でまとめてみよう。

 

過剰な深読みに走る同業者たち

「生き返るのを恐れて首を切断した」はぁ?

 しかし、この佐世保高1女子生徒同級生殺害事件に関しても、 「話を面白くするなよ! 」といちゃもんをつけたくなるコメントがいくつもあった。初めてのことだが、ここでコメンテーターの実名を晒して批判する。公的発言であるはずだから、問題ないだろう。

東洋大の桐生正幸教授(犯罪心理学)は「殺害後も首が胴体につながっていることで、被害者が生き返るのでは、と恐怖心が増した可能性が考えられる」と指摘する。
 なにこれ。だって、相手、死んでんだよ。加害者、逮捕された後も淡々としていたんだよ。思いつきすぎる。

 

「好きだからこそ憎しみが募り…」


「15歳といえば、まだ人格が形成されていない思春期。被害者と親しかったとすれば、好きだからこそ憎しみも募り、発達段階ゆえに残虐性が発揮されたとも考えられる」と分析 (MSN産経ニュース) http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/140727/waf14072723030035-n1.htm
 は?「好きだからこそ憎しみも募り」そんな心理法則があったら、世界中の高校生カップルは殺し合ってるわ。発達段階ゆえに残虐性?この人、発達心理学を勉強していないな。 1歳児がミニカーをバラバラにするのと、高校生が高校生をバラバラにするのとは、まるで心理機制が違う。

 

  「母親がいるあの子が憎い。殺してやる」 ・ ・ ・なにそれ 稚拙 

 

小宮信夫・立正大教授(犯罪学)の話 母の死をきっかけに、母親がいる被害者に憎悪を募らせた結果の抹消願望と、快楽殺人の混合型に至ったように見える。 http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140728/crm14072822560027-n1.htm
 「私には母親がいないのに、母親がいるあの子が憎い。殺してやる」 ・ ・ ・なにそれ。ついでに、抹消願望なる専門用語は存在しない。
次も同じ(同サイト)。
 臨床心理士の長谷川博一氏(55)は「女子生徒は、母親との死別や父親の再婚で慢性的な孤独感を味わっていた。仲の良い家族のいる同級生への嫉妬が殺害の背景にあったのかもしれない」

「 お話作り」が止まらないコメンテーターたち 


 東洋大学社会学部の桐生正幸教授(54)=犯罪心理学=は「思春期特有の揺れ動く精神状態の中で、母親の死に接し、人の死や生命の不確かさのようなものを強く意識したのではないか。そこから、興味が生じて調べてみたいという感情が高まり、行動に出てしまった可能性がある」と指摘する。桐生教授は「こういった犯罪では、人間関係が出来上がり自分を信用してくれる人を対象にすることが多い。だから親しい友人をターゲットにしたと考えられる」
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140728/crm14072821550025-n1.htm
 想像力豊かと言うより、話を盛りすぎ。もっともらしい創作話をつなぎ合わせている。「こういった犯罪では、人間関係が出来上がり自分を信用してくれる人を対象にすることが多い」なんて、聞いたことない。だいたい、こんな例、一般的傾向を指摘するほど事例が多くない。

 

スキゾタイパル人格障害-通常心理が当てはまらない相手もいる

加害者に通常の人間的感情はあまりないのではないだろうか

 

 僕が、これらのコメンテーターの発言が「深読み」だというのは、 「通常の人間の心理の動きをモデルとし、そのモデルに基づいて憶測を加えている」からである。
僕は、この加害者に関しては、それではダメだと思うのだ。嫉妬・愛情・憎悪・・・加害者は、そういう人間的感情を体験していたのか?あったとしても、そのような感情は極めて希薄なものでしかなかったのではないか。
  つまり、僕は、この加害者は、そのような理解可能な人間的感情から遠く離れた不思議世界の住人だったと割り切った方が良いと思われるのだ。
  そのようなタイプは、存在する。統合失調型人格障害が正式名称だが、僕は好んでスキゾタイパル人格障害と呼んでいる。僕がその印象を強く受けたのは、周囲から見て、打ち解けずとっつきにくい子供だったということだ。これは、 「他人に近づきたい」と言う人間的感情に乏しいこと、そもそも喜怒哀楽の起伏が平板だというこのタイプの特徴を表している。かつてぼくは、 『少年Aの深層心理』で酒鬼薔薇をスキゾタイパル人格障害とした。酒鬼薔薇の「死をみたい」と言う願望も最終的には説明が不可能なものだと思う。
 スキゾタイパル人格障害の最大の特徴は、一般社会が共有している常識や価値観とはかけ離れた理解困難な独自世界の中に生きているということである。その世界は、魔術的であったり、奇妙だったり、迷信的だったり、妄想的だったりする。 (小学校の時に異物を給食の中に混入させたという事件の動機が「馬鹿にされたから」と言う妄想的なものであったことに注目して良い)

 

説明しようもないものを無理にこじつけない解釈


  だから、加害者の「人間を殺害してバラバラにしてみたかった」と言う犯行動機に関しては、通常の人間的な動機からは理解不可能なものだ、とするしかないのである。ヤスパースは、通常の人間の動機によって理解可能な心理と、それでは了解不可能な統合失調症などの妄想とを分けている。
  だから、加害者の犯行動機に関しては、 「通常の人間の感情では理解不可能」とするしかないものだ。 「それでは何も言っていないではないか」と人は言うかもしれない。だが、無理な説明を付け加えようとすれば、上に挙げたような、こじつけと深読みをつなぎ合わせてもっともらしく仕立て上げたお話しか出てこないのである。

 

最新情報 

先ほど某番組のVTRコメント収録を終えたところ、他のディレクターさんが局の部屋に駆け込んできて「ついさっき、加害者少女が『再婚した父親が眠っている時に金属バットで殴った』件の裏が取れた」ということでした。この件は、ネットで以前から出回っており、ブックマークのご意見の中にも、「父親とそれほど確執があったということは、人間的な心情があったという証拠ではないのか」というご指摘が多数ありました。この問題に関しては、「父と娘」という私にも縁のある問題であり、考えるところを急遽7月31日夜7時からジュンク堂大阪本店で予定されている講演会でお話しさせていただきます